誰かのために吐くウソでも
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「九州のおばあさまは大丈夫だった?」
この間、九州が豪雨に見舞われた時、東北に住む母方の祖母から電話がかかってきた。
私には、九州に父方の103歳の曾祖母がいる。
東北に住む母方の祖母は、その曾祖母をとても尊敬している。
たぶん祖母自身は、1度か2度、親戚の集まりで会っただけのはずなんだけど、折りをみて曾祖母の体調を心配している。
曾祖母はとても明るくて品がある女性だ。
100歳超えとは思えないくらい、よく話し笑う。
90歳過ぎまでは自分で買い物をして、自炊をしていたというから驚きだ。
デイサービスに週に何度か通っていて、すごい80歳くらいの人にモテていることを自慢してきた。100歳過ぎてもモテる人はモテるらしい。
前の前の夏に会いに行った時。
曾祖母は自分で歩くのはしんどそうだったけど、ベットに座ってひたすら喋り倒していた。おやつに葡萄を出してくれて、たくさん食べるように薦めてくれた。
なんというか、九州の曾祖母は周りを自然に笑顔にするのが上手い。
東北の祖母はどちらかというと人見知りで奥手だから、100歳を超えても明るく元気な曾祖母に憧れのようなものを感じているのかもしれない。
曾祖母は「昔仲良くしていた人は、もうみんないない」と何気なく会話の中で言った。それを聞いた時、寂しくて、でも何といえば良いのか私には分からなかった。
大好きな旦那さんも、親も、友だちも、自分より先にいなくなってしまうのは、とても怖いことのように感じた。
「またおいで」と曾祖母が言った。
「また来るね」と私は曾祖母の手を握った。
曾祖母の手はあったかくて、すごく元気だった。
すぐは来れないと思ったけど、本当にまた行こうと思ったのだ。
私には、103歳の曾祖母がいた。
この間の冬。
突然、九州よりもずっと遠くて、もう会いたくても会えないところに行ってしまった。
「東北のおばあちゃんには、九州のひいばあちゃんが亡くなったことは言わないように」
しばらく経ってから、母からそう告げられた。
母方の祖母は元々心配性なのに加え、いま体調を崩していて、少し塞ぎこんでいる。
そんな祖母にとって、自分より年上で元気な曾祖母は希望なのだ。
曾祖母の事実を伝えると、祖母は余計に塞ぎこんでしまうから、という母の考えなのだろう。
そして、冒頭の電話が祖母からかかってきてしまった。
私は少し考えてから、歯切れ悪く「大丈夫だよ、たぶん」と答えた。
母は祖母を体調を心配して、私に嘘を吐くよう言ったのだろう。
決して悪いことじゃないはずだ。
でも、祖母は、もうこの世にはいない曾祖母の身を案じているという事実に、私は何とも言えない気持ちになる。
ウソは嘘なのだ。
この嘘は、正しいのか間違ってるか分からないけど、すごく痛くてさみしい気持ちになる。